NILEport(ナイルポート)富裕層向けウェブマガジン&会員制SNSコミュニティサイト

 
 
「Dusk Dune」©栗田紘一郎 
 
 
さて、栗田氏の作品は、そのほとんどが大判のプラチナ・パラディウム・プリント(以後プラチナプリント)だ。

プラチナプリントとは130年前にイギリスで発明された古典的な写真技法のひとつで、現像にプラチナの自然な金属反応を利用する方法である。
 


 
「Foggy Two」
©栗田紘一郎
 
  
具体的にどのようなものかと言えば、まず最大の特徴は、幅広いグレーの諧調による優雅な立体感と、プラチナの金属としての安定性による変わらぬ美しさ。近代写真の父と言われるアルフレッド・スティーグリッツ(*)に「プリントの貴公子」と言わしめたプリント方法、という。1920年代までは盛んに作られたが、後に扱いやすく大量生産できるシルバープリント全盛の時代となり、一時期ほとんど姿を消してしまった。今では限られた人々に継承されている伝説の技法とでもいうべきものだ。

栗田氏がプラチナプリントを始めたのは10年ほど前のこと。 「シルバー、プラチナそれぞれに魅力がありますが、手作りの過程の多いプラチナは『自然』や『接点』というテーマにもフィットすると思っていました。」 とは言え、材料も高価で非常に手間がかかるため、思い切るまでには時間が必要だった。

なにせ「プリントの貴公子」、である。ぞんざいな扱いは許されない。

まず、フィルムを大量に使う。感度が悪いので、ネガを直接紙に焼き付ける「密着プリント」しかできない=引き伸ばしができず、フィルムの大きさがそのまま写真の大きさになるためだ。基本サイズのフィルム8x10(エイト・バイ・テン)は、普通のネガフィルム36枚分の大きさ。一枚撮ったら、フィルム1本分を使うことになる。

  
 
 
「shadow」
©栗田紘一郎
現像に必要な材料は市販されておらず、自分で作る。

まずはプラチナ溶液の調合である。

見せてもらった粉末プラチナ化合物はコーヒー色。調合した溶液もコーヒー色で、これを紙に塗って乾かすと、印画紙になる。専用器械の台の上にこの印画紙とフィルムを重ね、ガラスのカバーを被せてから中の空気を抜く。こうすることで印画紙とフィルムがぴたりと密着する。そのままじっくりと紫外線をあてて反応を促し、現像液に浸す。

液の調合の具合、塗り方、反応時間などひとつひとつの過程の重なりで、同じネガから焼いても全く同じ作品になるとは限らない。全てがその時の制作者の感覚で決まる、とても絵画的な手法といえる。




(*)アルフレッド・スティーグリッツ(Alfred Stieglitz)
1864年-1946年、ニューヨーク生。ドイツ留学中に写真を学び、帰国後、欧州の絵画風写真"ピクトリアリスム"を導入、写真芸術の浸透に貢献したが、その後手を加えない写真独自の芸術性を提唱してストレートフォトグラフィを支持し、20世紀の写真芸術の方向性を築いた。



 
 栗田 紘一郎

兵庫県芦屋出身、ニューヨーク在住の芸術写真家。Fotosphere(フォトスフェア)主催。関西学院大学では視覚心理学専攻。最近はオルタネーティブプロセス、特に自然をテーマとした大型プラチナプリントを手がける。作品はパリのBiblioteque Nationale de France、Maison de Europienne de la Photographieを始め、Museum of fine arts Boston、Los Angels County Museumなど米国、日本の主要美術館に収蔵されている。

Courtesy of FOTOSPHERE Gallery
(日本オフィスあり)  
   



NILEport NY : Ayano Matsumae

東京大学文学部・美学芸術学科卒業。東京で国内外のアパレル、イベント企画会社等を経て、フリーランスライターとなる。現在ニューヨーク在住、アート、ライフスタイル、フード・カルチャー等をカバー。


   



友達に紹介する

NILEport & NILE'S NILE
富裕層のプレミアムライフスタイル NILE'S会員募集中
  • ・毎月無料で会員専用雑誌をご購読
  • ・様々な会員特典・プレゼント
  • ・NILEport会員専用SNSのご利用
NILE'S会員について
無料会員登録はこちら

関連情報

フィードバック

ご記入頂くご意見、ご要望は、NILEport事務局へ配信され、コンテンツサービスの発展・改善のため利用いたします。
氏名
メールアドレス
年齢
性別
地域
職業
年収
コメント