NILEport(ナイルポート)富裕層向けウェブマガジン&会員制SNSコミュニティサイト

 
 
Isaac Julien and Russell Maliphant, *Cast No Shadow, *2007. Photo by Johan Persson. Courtesy of PERFORMA and Sadler's Wells.
 
 
 
 
 
Isaac Julien and Russell Maliphant, *Cast No Shadow, *2007. Photo by Johan Persson. Courtesy of PERFORMA and Sadler's Wells. 
 
紹介したい作品は尽きないが、イギリスの映像作家アイザック・ジュリアン(Isaac Julien)の"Cast No Shadow"に触れて終わりたい。 会場は、ブルックリン最大のパフォーミングアーツ・センター「ブルックリン アカデミー オブ ミュージアム(BAM)」の、Harvey Theaterである。

BAMは創設から140年以上の歴史を持ち、一時期活動を停止して放置されたこともあるが、最新の舞台技術を備え付けて1999年にドラマティカルな再生を果たした。 ユニークなのは、朽ち落ちて躯体がむき出しになった壁をほとんどそのまま内装としていること。崩れゆくもののグロテスクな美しさ。例えるなら、肉壁を連想させる真紅の壁も相まって、動物の体内にいる感じであろうか。

さて、パフォーマとロンドンのサドラーズ ウェルズ(Sadler's Wells)劇場の共同コミッション作品で、BAMのthe Next Wave Festival参加作品でもある同作品は、間違いなく今回最大の大作と言える。

2004年、ゴールドバーグ氏が、ジュリアン氏にそのフィルムでパフォーマンス作品を制作しないか、と持ちかけたのが始まりだった。翌年にサドラーズ ウェルズ劇場が企画に加わり、劇場のアソシエイト・アーティストであるラッセル・マリファント氏が、振り付けとダンスでコラボレーションすることになった。

 
 
Isaac Julien and Russell Maliphant, *Cast No Shadow, *2007. Photo by Johan Persson. Courtesy of PERFORMA and Sadler's Wells. 
 
 
1980年代から一貫してアート映画を作り続けているジュリアン氏の、映画に対する考えが簡潔かつユーモラスに述べられている部分が、アートのインタビュー雑誌BOMBの中にあったので紹介したい。すなわち、「特に英国では、映画がアートの形態のひとつであることが忘れられている。実際英国人は映画を嫌う。今やオスカーを受賞するための技術と考えられているのだ。1994年にデレク・ジャーマンが死んだ時に、アートシネマは完全に死んだ。(中略)少なくとも英国では90年代半ばから、アートは映画(の亡霊)に憑り付かれるようになった、と私は言いたい。英国でダグラス・ゴートンや・・・などのビデオアーティストが出てきているのはそういう理由である。」

氏の作品の目的のひとつは、フィルム、ダンス、音楽、絵画、写真、彫刻、建築、劇場、あらゆるアートの表現様式の間に横たわるバリアを打ち壊し、強力な映像の物語を打ち立てることである。

「強力な映像の物語」、まさに"Cast No Shadow"は、政治、歴史、神話的メタファーを次々に運ぶために精密に作られた、ミステリアスな乗り物、といえる。
作品は、それぞれ北極圏、西アフリカ、アドリア海のシシリー島を舞台にした"True North"、"Fantome Afrique"、"Small Boats"の3部構成となっている。

第1章と第3章では、リアルなダンサーが舞台で舞うが、時間がたつにつれ記憶に強烈によみがえるのは、めくるめく映像である。

一見なんの関連もない3つの時空を貫くキーパーソンは、両性具有的な不思議な美しさを湛える黒人女性Vanessa Myriである。

第2章"Fantome Afrique"では映像中で神がかり的に踊るダイナミックな黒人ダンサー、ステファン・ギャロウェイも謎を深める。


舞台には、半円状に3つのスクリーンが並んでいる。 青空の下の真っ白な世界を、黒衣の3人が進んで行く。氷点下で組みあがる無限の光景が、3つの画面にめくるめく表れては消える。

1909年、史上初めて北極点に立った人物が作品のインスピレーションである。それが黒人男性マシュー・ヘンソンであることに、西洋史はあまり触れたがらない。白人ピアリ隊長であって欲しいのだ。アート誌のインタビューでも、ジュリアン氏の言葉は、ピアリを立てるように必ずどこかを歪曲された、という。

無垢に広がる氷と雪の世界。その静かで残酷な美しさに、ヘンソンの孤独さのみならず、悠久の時にぽつんと存在する生き物としての孤独さを感じずにはいられない。

流氷を望む波打ち際にMyriが現れる。舞台にも彼女が現れ、二人のMyriがゆっくりと虚実の世界を通り抜ける。
唯一彼女が、無人の歴史の証人である。


今度は3つのスクリーンが真一文字に並び、映像だけで進行する。土地と建築が調和した美しい街並みで知られる"ブルキナファソ"の首都オガドゥグは、アフリカの映画制作のメッカでもある。"Fantome Afrique"はここからスタートする。

ステファン・ギャラウェイが、熱帯の平和な日常光景の節々に紛れ込む。その踊りは、呪術師が、全身全霊で自然の力を呼び込もうとしているようだ。しかしどうやら彼自身が、超自然的な存在であることは間違いない。

とある建物の屋上にゆったりと腰を下ろし、土の建物群の合間を通り抜けていく自分自身を静かに見下ろすMyri。彼女はいったいどこに行くのだろう。自分を見つめる彼女は何者なのだろう・・・。





NILEport NY : Ayano Matsumae

東京大学文学部・美学芸術学科卒業。東京で国内外のアパレル、イベント企画会社等を経て、フリーランスライターとなる。現在ニューヨーク在住、アート、ライフスタイル、フード・カルチャー等をカバー。


     



友達に紹介する

NILEport & NILE'S NILE
富裕層のプレミアムライフスタイル NILE'S会員募集中
  • ・毎月無料で会員専用雑誌をご購読
  • ・様々な会員特典・プレゼント
  • ・NILEport会員専用SNSのご利用
NILE'S会員について
無料会員登録はこちら

関連情報

フィードバック

ご記入頂くご意見、ご要望は、NILEport事務局へ配信され、コンテンツサービスの発展・改善のため利用いたします。
氏名
メールアドレス
年齢
性別
地域
職業
年収
コメント