勝利の追求を超える美学と誇り
1923年から開催されている「ルマン24時間レース」の歴史に名を刻んだ往年のマシンとドライバーがサーキットに集う「ルマン・クラシック」は、もう一つのルマンと称され2002年から隔年で行われている。
右を見ても左を見ても、1920年代~70年代の往年の名車ばかり。クラシックカーの祭典だ。
第4回を迎えた今年も、リシャール・ミル氏のブランド「リシャール・ミル」を冠スポンサーに頂き、7月11日から13日まで、これに先立ち開催された「ルマン24時間レース」の会場と同じサルテ・サーキットで熱戦が繰り広げられた。
400台のマシンを年代ごとに6つのクラスに分けて行われるこのレースで、今年は中野信治氏がリシャール・ミルチームのマシン、「ローラT70」に乗車。残念ながらマシン・トラブルで思うような走りは実現できなかったが、リシャール自身はそれでもこの走りを楽しんでいたようだ。
「ローラT70」は1960年代から70年代にかけて名声を轟かせた名車中の名車。1967年のF1ワールド覇者でありカンナム20連勝という大記録を打ち立てたデニス・フルムの絶頂期には常にこの名車が寄り添っていた。性能の優秀性に加え流線型のボディは言葉に尽くせないほどの美しさだ。
究極のテクノロジーとスピードを追求した結果、マシンをただの装置にしてしまったF1のサーキットで、このような車が疾駆する光景はもはや誰も見ることはできないだろう。リシャールは言う。

スタートを待つクラシックカー。ドライバーがコースの反対側から駆け寄って車に乗り込むルマン式スタート。

大人顔負けのスタートをみせる、子供たち。
走り去るロマンを求めて
「デザインも何もない。骨だけの台座に搭載されたエンジンとコックピットに申し訳程度のプラスティックのカバー。現代のF1には美学というものが失われているのかもしれません。このルマン・クラシックにはそこではなし得ない美学が、勝利の追求を超える価値があるのです」。

リシャール・ミルチームのマシン、往年の名車「ローラT70」
時計の世界にも同じことが言えるだろう。最新テクノロジーを追求した結果、デザインも哲学も無視して正確な時を刻むことを使命とした時計ができあがっても、それが人を感動させるわけではない。時計というものがそれを身につける人の生き方と美学を象徴するものである以上、性能だけで時計の価値を測ることはできないのだから。
リシャールが生み出す時計は、人が時を刻みその時が幾重にも重なることで歴史が生まれることを教えてくれる。しかも時間は必ずしも数値を積み重ねた結果ではないことを、数値を超える意味を持つことを教えてくれる。
人が愛着を持てるマシンでは、それがクルマであれ時計であれ、性能の良いことは十分条件ではない。むしろ美しさと誇り高さこそがそのマシンに命を与えるのではないか。リシャールが「ルマン・クラシック」を愛するのは、そこにはスピードなどというテクニカルなものからは生まれないであろうロマンがあるからだ。リシャールは少年のような眼差しで愛車がサーキットを疾駆する姿を見つめていた。

リシャール・ミルチームのドライバーは今年も中野信治氏。

疾走するフェラーリやポルシェが、60年~70年代のサルサ・サーキットを再現する。

リシャール・ミル氏とルネ・アルヌー氏。

伝説のサルテ・サーキットを疾走する伝説の名車。

RM011 フェリペ・マッサ。

うなりをあげるエンジン音はかつての名車を呼び覚ます。

観客動員数は今回初めて8万人を超えた。

アストン・マーティンやアルファ・ロメオ、ベントレーなどのクラシックカーが揃う様は壮観だ。

多くのクラシックカーファンに交じり現役のF1ドライバーの姿も。