千年の都、京都。かつては、人が住めない湿地であった。河川を開き、池を配し、水と風の流れを整え、千年栄える礎を築いた古代人の叡智は、悠久の時を越え、今も生きる。

京都・八坂神社の参道横、門前茶屋の風情を残す料亭がある。室町時代にそのルーツをもつ老舗料亭「京料理 二軒茶屋 中村楼」だ。東山の斜面を利用した料亭建築の奥へと分け入れば、門前の喧騒は消え、古都の静寂が広がる。

京都の水と自然。その素材を最大限に活かしながら、いつの時代も変わることなく最高の味を提供する「京料理 二軒茶屋 中村楼」。そこで供される京野菜や豆腐田楽などの京懐石に、人は山と自然に囲まれた京の味わいと、それを可能にする匠の技に感嘆する。
鴨川のほとり、東山の麓に位置する八坂神社。その一角にある中村楼は、室町時代末期に創業された京都を代表する老舗である。食材本来の良さを最大限に引き出す「水」を用い、いつの時代も変わることなくさらなる高みへと精進させる匠の技。
京都に息づく精神は、がん治療で注目を集める「免疫細胞療法」にも匠の技として活かされ、本命ナチュラルキラー細胞の力を最大限に引き出すことに成功した。
健康を維持していくための鍵を握っているのが「免疫」力であることは、すでに多くの人の知るところだろう。体力が弱っている時、気力が萎えている時、病が治りにくい時、「それは免疫力が弱っているからでしょう」というような会話も最近では決して珍しいことではなくなった。
実は「免疫」に注目した「免疫細胞療法」が、第4のがん治療法として注目されているという。その理由としては、第一に「免疫」学が著しく進歩していること、第二に既存の3大療法(手術、化学療法、放射線療法)の限界が明らかになったことがあげられる。ではこの「第4の治療法」とはいかなるものか。水から始まった話を少しサイエンティフィックな方向に進めてみたい。
一般的に、免疫療法は「患者体内からリンパ球を取り出し、体外で培養後、再び体内に戻すもの」と説明される。リンパ球の中でも、ナチュラルキラー(NK)細胞は活性が高い状態であれば、がんを殺す力が強く、またどんながんでも殺す。人間の体内ではがん細胞が常に発生しているのに誰もががんにかかるわけではない。それはこのNK細胞の働きがあるからだ。
しかしこのNK細胞は培養が難しい。そこで、がんを抑える本命「NK細胞」本来の能力を引き出し、活性が低下しているがん患者のNK細胞を劇的に増殖・活性化させる画期的療法が開発された。それが「ANK自己リンパ球免疫療法(以下ANK療法)」である。
がん細胞への効果的な殺傷力を高めたと言われるこの技術を確立したのが、京都大学出身であるリンパ球バンク株式会社代表取締役会長の勅使河原計介医師と、京都・東洞院クリニック院長大久保祐司医師の二人である。
老舗料亭・中村楼の料理人が厳選された素材と向き合い、その魅力を最大限に活かした京料理と、かたやNK細胞という、素材の持つ本来の力を最大限に引き出す「ANK療法」いずれも他の追従を許さない匠の技である。季節の移り変わりを感じながら、五感で料理を味わいつつ、勅使河原氏はこう語ってくれた。
京都の水は透明感があり、食材本来の良さを最大限に引き出すことで知られる。
「増殖と活性化の両立は困難でしたが、細胞の状態に合わせた刺激の与え方や組み合わせを工夫しました。健常人なら1000倍以上に増殖させ、活性も高めることができます」。
それを受けて大久保氏は、がん治療の福音とも言える言葉を発した。「がんが全身に転移しており、手術も化学療法も効果が期待できないと診断された患者さんに、抗体医薬による治療を併用したところ、腫瘍は徐々に縮小し、完全寛解状態となった例もあります。ANK療法単体ではなく、その他療法との併用など、がん治療の選択肢が広がったと言えます」
世界に誇る京都、その地で生まれた京料理と人本来の免疫力を利用したANK療法。そこには熱意あふれ高い技術を有した料理人と医学者たちの日々精進する姿が共通して見える。京の都が育む2つの技が、また新たな歴史を刻み始める。
勅使河原計介 てしがわら・けいすけ
京都大学医学部卒業。前・京都大学放射線生物研究センター晩発効果研究部門助教授。1985年より米国ダートマス大学免疫学教室研究員となり、2001年6月にはリンパ球バンク株式会社のテクニカル・アドバイザーに就任。現リンパ球バンク代表取締役。
大久保祐司 おおくぼ・ゆうじ
京都大学医学部大学院博士課程修了。2001年、リンパ球バンクと提携し、ANK自己リンパ球免疫療法専門医療機関として東洞院クリニック(京都市)を開設、現在に至る。
京料理 二軒茶屋 中村楼
京都市東山区祇園八坂神社鳥居内 TEL:075‐561‐0016