ニューヨーク州は意外に大きい。そしてその大部分は森林地帯である。
北端はカナダにまで届き、車でマンハッタンを北に脱出すると、半時間も経たないうちに森のまっただ中。寒暖の差が激しいため、ピンク、赤、黄色と紅葉の鮮やかさも格別だ。
ハドソン川の西側を2時間ほど北上すると、森に囲まれた広大な彫刻庭園、ストームキング・アートセンターは現れる。広大な草地の上で、空もひと際大きく感じられる。敷地は500エーカー以上、東京ドーム43個がすっぽり入る計算だ。

©Storm King Art Center Photograph by Jerry L. Thompson
Robert Grosvenor (b.1935)
Untitled,(1970), Weathering steel painted black, 10' x 212 5 ?" x 12' 6"
見晴らしの利く緩やかな土地の起伏や、リズミカルに配された、大きく枝を広げた木立が自然な仕切りとなって、巨大な作品の一つ一つが数分ではたどり着かない間隔でゆったりと配されている。大人達は散策や日光浴を楽しみ、子供達はキャッキャと原っぱを駆け、丘を転がり落ちる。ピクニックコーナーもあり、木陰のテーブルでお弁当を楽しむこともできる。
置かれているのは、第二次大戦後から現在までに制作された100点以上の作品達だ。土地が広いため巨大な作品が多い。
ユーモラスな針金のモビールが知られるアレクサンダー・カルダーだが、ここにある“TheArch”(1975)は、スティール鋼でできた、高さ15m以上の巨大なもの。重い素材に軽妙なバランスが息づいていて、今にもスルスルと動き出しそうだ。カルダーはしばしば室内の空間の制限にフラストレーションを感じていたようで、「空が天井となり、作品が戸外に展示されるのを見たい」とこぼしていたという。きっと、草葉の蔭で喜んでいるだろう。

©Storm King Art Center Photograph by Jerry L. Thompson
Mark di Suvero (b.1933)
手前から、Mother Peace, (1969-70), Steel painted orange, 41' 8" x 49' 5" x 44' 3"
Pyramidian, (1987/1998), Steel, 56 x 46 x 46'
敷地の中央エリアでは、戦後アメリカの彫刻界の重鎮、マーク・ディ・スヴィロの、スティール製H型鋼を組んだ十数mの大作達が並ぶ。並ぶといっても、数百m離れて、だが。
一番高い丘の上に建つ邸宅は美術館である。元々個人の別荘だった建物で、バックヤードには、鉄の彫刻の大家、デイヴィッド・スミスの作品群など、初期に集められた比較的小スケールの作品が置かれている。
©Storm King Art Center Photograph by Jerry L. Thompson
Isamu Noguchi (1904-1988)
Momo Taro, (1977-78), Granite, 8' x 34' 7" x 21' 7" (overall)
見下ろすと、大自然にちょこんと置かれた摩訶不思議な作品達は、地球外生命体のようだ。その合間をミジンコのような人々が行き交う様子は、のどかだが、どことなくシュールでもある。
少し離れた場所には、御影石でできたイサム・ノグチの「モモタロー」が鎮座する。つるりと磨かれた表面とラフな断面のコントラストが美しい。形はまっぷたつに割れたモモだが、モモタローはいない。どうやら抜け殻のようだ。
同アートセンターは1960年、ハドソンリバー派*の絵画作品を収集、展示することを目的に創設された。ストームキングという名も、それらの画家達が好んで描いた近くの山の名にちなんだものだ。
それが、どうして彫刻公園になったのか。
持ち主の気が変わったのである。冗談ではなく、本当の話だ。
*註:)ハドソンリバー派は、19世紀半ばにニューヨークで発展した風景画家の一派。アメリカが1783年に独立して間もない時代に、アメリカの文化的なアイデンティティを発展させるために、ハドソン川流域に広がる無垢な自然をアメリカの象徴として理想的に描いた。
NILEport NY : Ayano Matsumae
東京大学文学部・美学芸術学科卒業。東京で国内外のアパレル、イベント企画会社等を経て、フリーランスライターとなる。現在ニューヨーク在住、アート、ライフスタイル、フード・カルチャー等をカバー。