
コンテナを使った展示:Courtesy of Art Basel
さらに楽屋裏の通路を抜けて倉庫に進むと、20の若手ギャラリーの合同展示エリアが広がる。コラボレーション形式のこのエリアは、ABMBが仕掛けたショーの実験展示だ。
フェアは外にも広がる。
隣接する植物園ではビデオ作品が上映され、近くの公園では20の貨物コンテナが若手ギャラリー達の展示場となる。ビーチ沿いでは9つのパブリックアートを設置。
ビーチにリラックスしに来た人々の目を楽しませる。
華やかに見えるものの、出展者達の心中は穏やかでない。この経済状況で誰もがまさに『一寸先は闇』の状態でオープンを迎えた。

Zheng Guogu, Commemorative Plaqe 2008, Lehman Brothers Gate : © Ayano Matsumae
昨年のバイヤー達はブースからブースへと蝶のように飛び回り、3-4分で即決していたが、今年は『取り置き』ばかり、$5000以上になると動きがぐっとスローになったという。
パネルディスカッションやレクチャーもびっしりと組まれたが、アート批評家Jerry Saltz氏のレクチャータイトルは露骨だ。『これが終焉。お金の潮はアート界から引き、ボートが沈む:』
講演の中で Saltz氏は「90年代前半の経済破綻より事情は悪くなり、アート界も40−48ヶ月間は影響を受けるだろう。」と 今後1年内にNYでの50-100のギャラリークローズを予測。
そして実体がなく、事象のコンビネーションであるマーケットを『マジックマッシュルーム』と呼び、「しかしアート界にとって、ここ数年のマーケットの求心制は驚くほど有益だった。」
出展者達は売れ行きを憂いながらも、実際には冷静、客観的に状況を見ている。
「ビジネスはスロー にはなるが、ベタープライスの構築に戻れる。最悪でも3年前の値段になるだけ。」
「特にコンテンポラリーアートにおいては、正常価格への調整が行われる。」「人々は購入前にもっと時間を使うようになった、すなわち、作品のことをもっと知ろうとするようになった。」と、市場の正常化や、コレクターや作家と丁寧な関係を築けることを前向きに捉えるところも多い。
また、こんな側面も。
「価格の下がった質の良い作品への交換を含め、コレクターが作品を売りたいと、フェア後に数個のアポができた。これらは供給としてとても重要。」

XU Zhen, Papa - Mama (Performance):© Ayano Matsumae
メイン会場のある通路で、 大小2匹の毛むくじゃらと出くわした。
前身を黒い毛で覆われ、目も鼻も口もついてない。
二匹は思わず足を止める人々を手招きすると、片っ端からハグをしている。周りをウロウロしていた筆者は、何度もハグされた。
カメラを向けるとポーズを取り、サービス精神も旺盛だ。一体何者か?
後日同じ場所を通ると、毛むくじゃら達は ShanghART ギャラリーブースの一角におとなしく座っていた。
壁の表示を見ると、上海の若手作家 XU zhen(シュー・ジェン)のPapa(原題はBaba) – Mama(2003)というパフォーマンス作品であった。顔のないパパとママは、みんなのパパとママ? 彼らを買うことはできないだろう。
人々の心をほぐす、毛むくじゃら。印象深さでは一番だった。
NILEport NY : Ayano Matsumae
東京大学文学部・美学芸術学科卒業。東京で国内外のアパレル、イベント企画会社等を経て、フリーランスライターとなる。現在ニューヨーク在住、アート、ライフスタイル、フード・カルチャー等をカバー。