真っ当なスシ屋のカウンターを、日本人が占拠していたのはもはや過去の話。「ウニ」「トロ」「スズキ」と、日本語で通すニューヨーカーも多い。先日、料理の名門校インターナショナル・カラナリー・センター( ICC )*が、ビギナーに向けたスシ教室を開催するというので訪れてみた。一体、ニューヨーカーのためのスシ教室とはどのようなものだろう。

© Ayano Matsumae
ICCは、WD-50のワイリー・デュフレンやMOMOFUKUのデイビッド・チャンなど、才能あるシェフを数多く輩出している専門学校だが、半年前にリクリエーション部門ができ、ビギナーも、一流の指導を受けることができるようになった。今回参加したのは性別、年齢、肌の色も様々な16人。スシ好きの妻に送り込まれたという健気な夫もいる。 講師の真保裕子(しんぼ ひろこ)さんは、NYを拠点に、米国・ヨーロッパで幅広くご活躍中の日本食文化コンサルタントだ。アメリカ式に、文中では裕子さんと呼ばせていただく。

© Ayano Matsumae
全4時間の講習は、裕子さんの実演から始まる。 今回の課題は巻物5品。具は干し椎茸の煮付け、出し巻き卵、鮪、鮭や野菜達。中央の調理台に一堂がいそいそと集まってくる。巨大な半切りとしゃもじ、鮫皮のワサビおろしなど、初めての道具に生徒達は興味津々。
裕子さんの話は一つ一つの伝統行程をきっちりと抑えながら、日本の食習慣にまで及ぶ。「日本人は旬を大切にします。スシにも旬の魚を使って、季節を味わうのですよ。」
さて、いよいよ生徒たちの番だ。それぞれが調理台につく。あちこちからトトトトと小気味よい音が響く。料理をしないと言われるニューヨーカーだが、手慣れたものではないか。ところが酢飯を手に取ると、ご飯の粘着攻撃に一堂は大苦戦。海苔が破れる、よからぬところにご飯が引っ付く、具がはみ出して巻きが閉じない等々。お子様をお持ちの方にはこの光景をリアルに想像していただけると思う。 さらなる難関は出し巻き卵。最後はどうしても炒り卵になってしまうのだ。

© Ayano Matsumae
裕子さんとアシスタント役のICCスタッフ達は、あちらへこちらへと救援活動に大わらわ。上手く焼けた男性が褒められると、「彼だけ道具が違っているわ」とちょっと妬ましそうに呟く女性も。和気あいあいとしながらも、めらめらとライバル意識を燃やしているのがニューヨークらしい。
2時間後、練習の甲斐あって、きれいな巻き寿司が並び始めた。アシスタントスタッフが手がけていた、竹の子と焼鯛のちらし寿司も完成。おいしそうな香に一堂の鼻孔が大きく開く。味噌汁と寿司醤油の作り方を学び、ついに実習終了だ。
シアターに移って、寿司の歴史を学びながらのディーナータイムでは、美しくセッティングされたテーブルに、ワインと食べ物が次々と運び込まれる。皆の気分も次第にほぐれてきて、質問が飛び交い出す。飛び子は日本のネタか、インサイド・アウトの巻物は日本にあるのか、魚を買うのはどこがいいのか。
「忘れないうちに、家で練習してくださいね。」 日本ではスシを作る家庭が減る一方、ニューヨークでは家庭料理となっていくのでは、と嬉しいようなちょっと複雑な気分となったのだった。
ICCの前身は、フレンチ・カラナリー・インスティチュート(The French Culinary Institute)≫
The International Culinary Centerリクリエーショナル部門≫
NILEport NY : Ayano Matsumae
東京大学文学部・美学芸術学科卒業。東京で国内外のアパレル、イベント企画会社等を経て、フリーランスライターとなる。現在ニューヨーク在住、アート、ライフスタイル、フード・カルチャー等をカバー。
更新日:4月24日