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染織史家・「染司よしおか」5代目当主 吉岡幸雄 王朝人の色彩感覚を現代に染織史家・「染司よしおか」5代目当主 吉岡幸雄 王朝人の色彩感覚を現代に染織史家・「染司よしおか」5代目当主 吉岡幸雄 王朝人の色彩感覚を現代に染織史家・「染司よしおか」5代目当主 吉岡幸雄 王朝人の色彩感覚を現代に

赤のグラデーションを愉しむ着物。これこそ王朝人が愛した自然染の色彩美の真骨頂である。

染織史家・「染司よしおか」5代目当主 吉岡幸雄(よしおか・さちお)

よしおか・さちお
1946年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、美術図書出版「紫紅社」を設立。88年、家業を継ぎ「染司よしおか」5代目当主に。以来、日本の伝統色について学び、植物染の研究を重ねる。毎年、東大寺お水取りの椿の造花の紅花染和紙、薬師寺花会式の造花の紫根染和紙などを奉納。『日本の色を染める』(岩波新書)、『日本人の愛した色』(新潮選書)、『源氏物語の色辞典』(紫紅社)など、著書多数。■「紫のゆかり 吉岡幸雄の色彩界」
http://www.sachio-yoshioka.com

私が日本の色にこだわるのは、奈良・平安時代から続く日本の美しい色彩が急速に失われているからに他なりません。色の退化は明治時代に端を発します。この時期から、西洋の産業革命の影響を受けて、従来の植物染料に代わり、量産可能な化学染料が用いられるようになったからです。江戸と明治の着物を比べたら一目瞭然。奈良・平安だったらなおさらですね。植物から採った自然染の伝統的な色合いは、透明感があり、深みがあると言いましょうか、少し退色しても、不思議なことにその美しさは変わりません。

なぜ先人たちがそのような色を求めたのかと考えると、それは自然界の色彩を身近に置きたかったからではないでしょうか。古来、日本人は畏怖と敬意を持って自然と共生することに精神的な美しさを感じてきましたから、植物から採った自然の色を生活に取り入れたい、纏いたいと願ったのも当然のことと言えるでしょう。

日本人が古来愛してきた色を出したいと考えたときに、役に立ったのが『源氏物語』や『伊勢物語』、あるいは『延喜式』といった平安時代の古典です。有難いことに、これらの文献から先人たちがどのような植物染料を使っていたのか、またどのような色彩感覚を持っていたのか、知ることができるのです。例えば、『延喜式』には、どんな植物染料にどれくらい灰や酢を加えれば、どんな色が出るのか事細かに書かれています。さらに『源氏物語』を読めば、「時に合いたる」色を纏うことこそが、最もお洒落だったことが分かる。つまり、春には桜色を身につける、またちょっと先取りして山吹色の衣装を纏う、そういう季節感を生活に取り入れることが王朝人の美的感性だったのです。かつては、四季をさらに二十四節気に分け、その移ろいを細かに感じとっていました。だから、赤一つとってもその濃淡がいくつもあり、実際にそれを重ねて着て愉しんでいたのです。そこには自然を大切にし、自然と語らいながら生きようとする精神性が感じられますね。

王朝人のような色彩感覚を蘇らせることで、現代では失われつつある日本人本来の精神的豊かさを回復するきっかけになれば、これほど嬉しいことはない、そう考えています。

染司よしおか(1)
染司よしおか(2)
染司よしおか(3)

灰汁を加えることで、紅花からは鮮やかな赤が出る。

とはいえ、私は昔から家業を継ごうと考えていたわけではありません。むしろその重みから逃げたいと考え、ずっと広告の仕事をやっていました。ところが、40歳になって、私の他に跡取りがいない状況に直面したとき、吉岡家が代々やってきた寺社の行事や儀式を突然止めるというわけにはいかないと考えを改めました。殊に、椿の造花を作るための赤い和紙を奉納する東大寺のお水取りの行事は幼い頃から毎年見てきましたから、なおさらです。毎年の行事のほか、10年に一度の法隆寺の聖霊会や20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮にも、お品を奉納させてもらっていますが、このような儀式が繰り返されるからこそ、職人の技も絶えることなく継承されていくのだと実感しています。

今や全世界を見渡しても、植物染の服を纏っている方はまれでしょう。しかし、本物の色を生活に取り入れないと豊かな人生は送れないと思うのです。ですから、自然染のスカーフ一枚でも使っていただいて、伝統美を生活に取り入れていただきたいですね。(談)

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更新日:2009年4月21日

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