
エジプトのファラオや秦の始皇帝、中世ヨーロッパの王侯貴族、さらにはハリウッドのセレブリティなど、時の権力者たちは、「不老不死」を求め莫大な資産を投じてきた。人類の歴史は「老い」と「死」という恐怖との戦いの歴史と言っていいだろう。
近年の遺伝子学の発展により、「不老不死」研究は加速度的に進展したが、その結果明らかにされたのは、人の寿命の生物学的な限界である。定説によれば、人の最長寿命は120歳前後であることが明らかにされている。
しかしだからこそ、その限界まで健康で若々しく、美しくありたいと考えるのは当然のことだろう。「老化のメカニズム」が明らかにしたのは、人の生物学的な寿命だけでなく、その健康の質は取り組み次第で向上させることができるということ。その究極の姿が「アンチエイジング」である。もはや「老い」は不可避なものではなく、コントロール可能なものなのだ。
老化のスピードは千差万別
求められるのはバランス
人はいかにして老いるのだろうか。人の体は約60兆個の細胞からなっており、それぞれの細胞は化学反応の連続によって適切に機能することで生命を維持している。その細胞が、何らかの理由によって傷つき正常な化学反応が阻害されることで起こるのが老化である。その原因としては、主に遺伝的要因やホルモン分泌の変化、細胞の酸化、肥満などが考えられている
「老化は“さびる”、“しぼむ”、“風化する”の3つに大別される」と話すのは、抗加齢医学を日本に紹介した第一人者として知られる同志社大学生命医科学部・アンチエイジングリサーチセンター教授の米井嘉一氏である。米井氏によれば、「さびる」とは、体内に取り込まれた酸素の一部が変化してできた「活性酸素」によって細胞が酸化すること。「しぼむ」とは、成長ホルモンなどのホルモン分泌の減少がもたらす生命レベルの低下である。「風化する」とは、神経細胞の減少による神経機能の低下だ。
こうした老化は誰のもとにも平等に訪れるものだが、そのスピードは一定ではない。神経や血管、骨、筋肉、ホルモン分泌など、老化が進みやすい部分もあれば、そうでないところもある。また、体質や男女差、生活環境などの違いによって、血管老化が進みやすい人、骨の老化が早い人など100人いれば100通りの老化がある。アンチエイジングに特効薬はない。加齢制御医学を専門とする、順天堂大学大学院教授の白澤卓二氏は語る。
「老化において遺伝的要因が占める割合はわずか約25%。残りの75%は後天的な環境によって決められていることがわかってきました。老化の環境要因となるタバコやカロリーの過剰摂取など、生活習慣を改めることで、老化を制御することができるはずなのです」
白澤氏によれば、人間には老化や寿命をコントロールする長寿遺伝子と言うべきものが存在することが最近の研究によってわかっており、その遺伝子のスイッチをオンにすることで健康長寿が可能になる。そのためには、自分の老化タイプを把握し、それに応じた予防・改善策を講じる必要があるという。
「アンチエイジング医療が目指すものは、バランスのよい老化。骨や血管、神経、筋肉、ホルモンのうちひとつでも弱点があれば病気になる危険性が高くなります。病的な老化を早めに見つけ、その危険因子を特定し、取り除く努力をすることが健康長寿への第一歩です」(米井氏)

順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。医学博士。1982年、千葉大学医学部卒業。同大学大学院医学研究科修了。東京都老人総合研究所病理部門研究員、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーなどを経て現職。著書に『長寿遺伝子をオンにする生き方』(青春出版社)、『Dr.白澤のおいしい処方箋 健康ジュース』(角川・エス・エス・コミュニケーションズ)など。

同志社大学生命医科学部・アンチエイジングリサーチセンター教授、医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。日本抗加齢医学会理事。抗加齢医学を日本に紹介した第一人者として、2005年に日本初の抗加齢医学の研究講座である、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。2008年、同志社大学生命医科学部教授就任。著書に『早く老ける人、老けない人』(PHP研究所)など。

大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学教授、医学博士。1987年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部老年病講座大学院修了。米国スタンフォード大学循環器科研究員、大阪大学助教授を経て、2003年より現職。おもな研究分野は循環器、遺伝子治療、老年病学。1999年メドジーン(現アンジェスMG社)創業。日本抗加齢医学会理事。

東海大学医学部准教授、同大付属東京病院副院長・消化器肝臓センター長。1986年東海大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部大学院、UCLAリサーチフェローを経て、97年東海大学医学部講師、2004年より現職。専門は消化器肝臓病学、予防医学(抗加齢医学、総合健診、産業保健)。監修本に『専門医がやさしく教える老化判定&アンチエイジング』(PHP研究所)

北里大学名誉教授。医療法人社団 AACクリニック銀座 名誉院長。NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長。東京大学卒業後、1956年フルブライト留学生として渡米。形成外科に魅了され、外科および形成外科の専門医の資格を取得。64年に帰国後、東京大学形成外科勤務、横浜市立大学形成外科講師を経て、73年より北里大学形成外科教授。96年に退職。著書に『アンチエイジングのすすめ』(幻冬舎)など。
更新日:2009年9月1日

